自賠責保険を示談に活用する
自賠責保険には示談交渉が成立する前に被害者側から請求する方法があります。
自賠責保険は交通事故の被害者が最低限の補償を受けられるように設けられた国の保険制度ですから、任意保険にはない次のような特徴があります。
・被害者の重過失による減額が制限されている。
・被害者請求が認められている。
自賠責保険は被害者の救済を目的とし、被害者の死亡、治療、後遺障害を保障する保険のため、故意に事故を起こした事が立証されるような特別な場合はのぞいて、被害者側によほどの落ち度がない限りは過失相殺はされません。少しでも支払う保険金を抑えるために、できるだけ過失相殺をしてくる任意保険とは違うところです。
自賠責保険には示談が成立する前であっても、被害者から保険金を請求することができる制度があります。自賠責保険の特徴を生かして、不利な示談を受け入れないようにしたいものです。
自賠責保険は示談前でも請求できます
自賠責保険は、示談が成立する前であっても請求することができます。請求できるのは、次の内容です。
<仮渡し金制度>
被害者が死亡、もしくは重大な被害を受けた時、当座の費用に充てるために、被害者側にのみ請求することが認められている制度です。金額は傷害の程度によって決められています。
● 死亡事故・・・290万円
● 入院14日以上かつ治療30日以上を要する場合(大腿又は下腿の骨折等)・・・40万円
● 入院14日以上を要する場合又は入院を要し治療30日以上を要する場合(上腕又は前腕の骨折等)・・・20万円
● 治療11日以上を要する場合・・・5万円
ただし、仮渡金で受け取った金額が、最終的に確定した保険金額よりも多い場合は、仮渡金を返却しなければなりませんので、注意が必要です。
<内払金制度>
被害者の入院・治療が長引いていたり、治療が終了して損害額が確定しているような場合、被害者、もしくは加害者から請求することができる制度です。損害額が10万円を超えるごとに、1回に10万円単位で保険金を受け取ることができます。傷害事故に限り、上限の120万円まで利用することができ、最終的な賠償額が確定した時点で、すでに支払われた内払金は控除されます。
このように、自賠責保険は示談前でも受け取ることができますので、加害者側に誠意が感じられない、相手の保険会社が示談を急かす、といったような場合には、任意一括払い制度を利用するのはやめて、先に自賠責保険の被害者請求を行うという方法もあります。
自賠責保険を示談前に利用する理由
不幸にして交通事故の被害者となられた場合、損害賠償は保険金など金銭で請求するしかありません。この際、加害者側から加入している保険会社などを通じて、示談の申し入れが行われることが多くなりますが、示談に応じるかどうか、慎重に検討する必要があります。示談にいったん応じてしまうと、基本的にはその後の相手方への損害賠償請求等が出来なくなってしまいます。
しかし、被害の程度が確定するまでは、実際の被害額がどのくらいになるものか、判断するのは難しいと言えるでしょう。ケガの状態が思わしくなく、予想以上に治療が長引いてしまったり、思わぬ後遺障害が残ってしまう可能性も考えられます。
加害者側からの示談の申し入れは、通常刑事処分が確定する前に行われることが多くありますが、これは、加害者の刑事処分を決める際に、すでに示談が成立している場合は、裁判所においてはこれを加害者にとって有利な条件として考慮される可能性があるからです。
治療が長期に渡る場合には、自賠責保険の示談前の被害者請求を利用して、まずは治療に専念されることが先決でしょう。示談に応じるのは、ケガが回復されてからでも決して遅くはありません。