自賠責と示談に関する注意点
交通事故に、ある日突然遭遇してしまったとしたら、あなたならどうしますか？
交通事故による被害で、長い期間苦しむことになる方は少なくありません。ご自身やご家族がけがや後遺障害、最悪では死に至った場合、慰謝料や損害賠償の請求でさらに苦しむことにならないよう、最低限の知識は身に付けておきたいものです。
交通事故の場合、その多くは示談による解決が図られらます。しかし、人身事故となると、自賠責保険が関係してきます。自賠責保険と示談に関しては、注意しなければならないことがあります。
まず、加害者が自賠責保険にしか加入していなかった場合の示談です。この場合は示談書に執行力を持たせるために、示談書を公正証書にしておくことです。こうすることで、裁判をせずにただちに相手の財産を競売することができます。
もう一つは、加害者が任意保険に加入している場合の示談です。人身事故では、自賠責保険と加害者の加入している任意保険による二本立てでの賠償となります。しかし、自賠責保険と示談交渉との間には、思わぬ関係があることをご存知でしょうか？
自賠責保険が示談交渉に影響を及ぼすわけ
自賠責保険と示談交渉には、どんな関連性があるのでしょうか。
不幸にして交通事故の被害者となられた場合、加害者側に対し、保険金等による賠償の請求を行うことになります。この時、人身事故であった場合には、任意保険よりもまず先に、自賠責保険による支払いの適用を受けることになります。といいますのも、任意保険の対人賠償というのは、自賠責保険の上限によりまかない切れない補償額について支払われるものだからです。そこで取り入れられる事が多いのが、任意一括払いという制度です。
示談交渉の難しさのひとつとして考えられるのが、この段階で相手側の加入する任意保険会社が代理となって示談の申し入れが行われるところにあります。被害者の怪我の程度が重く、手術を伴う場合など、治療費、損害賠償、休業補償、慰謝料などを考え合わせると、自賠責保険による傷害の最高補償額１２０万円では、到底まかないきれるものではありません。また、被害者が死亡された場合の自賠責保険料は最高で３０００万円ですから、裁判による死亡補償額の判例から見ても、その補償額では開きがありすぎます。しかし、保険金を支払いする立場の任意保険会社が窓口となって示談の提示があるからには、できるだけ支払いする保険料を抑えようというのが、保険会社の思惑なのは当然のことです。
自賠責保険が示談交渉に影響を持つのは、こうした理由があるからなのです。それでは、任意一括払い制度とはどういった制度なのでしょうか。
自賠責保険と任意一括払い制度
任意一括払い制度とは、加害者が加入している任意保険会社が、自賠責保険、任意保険の対人賠償保険、両方の保険金を一括で支払いする制度のことです。通常、自賠責保険の請求は加害者か被害者が行わなければなりませんが、任意一括払いを利用することで、その手間や時間を省くことができます。任意一括払いの請求が行われると、窓口となった保険会社がいったん自賠責保険料も立て替えて支払いをしてくれます。その後、任意保険会社が自賠責保険会社から、立て替えた保険料を回収します。この場合、病院への治療費も、任意保険会社が支払いをしてくれますので、あきらかに補償額が自賠責保険の範囲内で足りるような場合、この制度は被害者にとっても便利なものと言えます。
ただ問題なのは、治療が思ったよりも長引いたり、事故当初は想定できなかった後遺障害が残ってしまった場合です。示談交渉に慣れた保険会社が相手となるわけですから、相手のペースで示談交渉を進められ、本来請求できる金額よりもずっと少ない補償額で示談に応じてしまい、後から後悔する、というケースも少なくありません。そうならないためには、自賠責保険を示談の前に請求する、という方法もあります。